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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)738号 判決 1969年4月22日

上告人

星野賢吉

被上告人

高山欣作

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一について。

原審の確定した事実関係はつぎのとおりである。

被上告人は、昭和三三年一二月頃、訴外長谷川友治郎から二五〇万円の融資を受ける約束を得たので、同月五日、右借受金の弁済を担保するため、訴外長谷川に対して原判決別紙目録記載(三)ないし(七)の土地ほか二筆の不動産につき抵当権を設定するとともに、あわせて右各不動産について被上告人が右二五〇万円の債務を期限に弁済しないときはその弁済に代えてその所有権を長谷川に移転する旨の代物弁済予約を締結し、原判決主文第二項(2)記載の抵当権設定登記および停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。しかるに、訴外長谷川は被上告人に対しては右融資の約束に基づく二五〇万円の内金として二四万二五〇〇円の金員を交付したにすぎなかつたため、右抵当権設定登記は右交付金額を元本とする被担保債権の限度でのみ有効に存続することとなつたが、右代物弁済の予約については被上告人が二四万二五〇〇円の貸与金について前記不動産を代物弁済に供する意思を有していたものとは認められないところから、右予約に基づいてされた所有権移転請求権保全の仮登記は実体に合致しない登記として無効のものであつた(以上の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。)その後、昭和三四年八月三日、訴外長谷川は、被上告人に対する貸金債権を前示(三)ないし(七)の土地ほか二筆の不動産に対する抵当権とともに上告人に譲渡し、上告人は、右各不動産に対する抵当権設定登記についてそれぞれ附記登記を経由し、また、上告人は、その際、代物弁済予約上の権利をも譲り受けたものとして、右各不動産に対する仮登記についてもそれぞれ附記登記を経由した。しかるところ、上告人は、昭和三八年二月末頃、被上告人から一〇〇万円の交付を受けることによつて上告人が訴外長谷川から譲り受けた前示貸金債権の全部を決済ずみとすることを承諾したので、被上告人は、同月二八日、一〇〇万円の金員を上告人に交付した。これによつて上告人の被上告人に対する貸金債権は消滅し、右債権を被担保債権とする前示(三)ないし(七)の不動産を目的とする抵当権も消滅した。なお、右五筆を除く他の二筆の不動産に対する抵当権設定登記については、そのころ、抵当権の一部放棄を原因とする抹消登記手続が経由された。被上告人は、以上の事実関係に基づいて、上告人に対し、(三)ないし(七)の不動産について主登記である抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続を求めるものである。

ところで、所論は、被上告人が主登記である抵当権設定および所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続を求めるには、訴外長谷川を被告とすべきであり、上告人に対しては上告人が現にその登記名義人となつている各附記登記の抹消を求めうるにすぎないから、上告人に対して前記抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をなすべきことを命じた原判決には、不動産登記法等の解釈を誤つた違法があるという。

しかし、抵当権設定登記または所有権移転請求権保全の仮登記について、実体上の権利移転の合意に伴い、権利移転の附記登記が経由された場合には、附記登記の名義人が同時に主登記の登記名義人になるものと解すべきであるから、被上告人が前示各登記の原始的または後発的無効を主張して該登記の抹消登記手続を求めるにあたつては、現在の登記名義人である上告人のみを被告として訴求すれば足り、所論のように、主登記たる抵当権設定および所有権移転請求権保全の仮登記については実体上の契約の直接の当事者である訴外長谷川を、また、その附記登記については上告人を、それぞれ被告として訴求しなければならないものではない、と解するのが相当である。この理は、すでに、大審院昭和七年八月九日判決民集一一巻一七号一七〇七頁、同昭和一三年八月一七日判決民集一七巻一七号一六〇四頁の趣旨とするところであつて、いまこれを変更する必要をみない。論旨引用の大審院民事連合部明治四一年三月一七日判決民録一四輯三〇三頁は、前示大審院判決により、右の限度において実質的に変更されたものである。

されば、これと同旨に出て、上告人に対し、原判決主文第二項(2)記載の各登記の抹消登記手続をなすべきことを命じた原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同二について。

所論は高山セイに、目録記載(二)の不動産が被上告人からその妻訴外高山セイに贈与されたことを前提として、詐害行為取消判決の効力を云々するものであるが、原審は、右不動産が被上告人から贈与を原因として登記簿上セイの名義に変更されたことを認定したにとどまり、被上告人において実体上贈与の意思表示をしたことまでも確定した趣旨でないことは、原判決の判文に照らして窺うに難くないところである。されば、所論は、この点においてすでに前提を欠き、原判決を正解しないでその判断を非難するにすぎないものであるから、論旨は採用するに由ないものといわなければならない。

同三について。

所論は、原判決別紙目録記載(一)の不動産につきなされた上告人名義の所有権移転登記の抹消登記手続を命じた原判決主文第二項(1)に関しても、原判決の破棄を求めるという。しかし、その理由とするところは、原判決が正義、公平の原則に反するというにとどまり、そのいかなる点に法令違背があるかを具体的に示すところがないから、上告適法の理由とならず、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

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